「業界の現状を打破したい」。目指すのは、もっと楽しく働きやすい警備の現場

パープル

written by ダシマス編集部

地味で体力的にもきついイメージのある警備の仕事。その実態は当たらずしも遠からず?
でも、だからこそ「どうすれば改善できるか」を考え、警備の世界に新しい風を吹き込んでいる人がいる。
業界変革のフロントランナー、有限会社 九州中央警備保障の石橋 力(ちから)課長に話を聞きました!

石橋 力

石橋 力

有限会社 九州中央警備保障 福岡営業所 課長
力さんってこんな人

  • ・かつてはミュージシャンを目指しいていた“夢追い人”
  • ・アルバイトで警備の国家資格を取得した“努力の人”
  • ・家族のために正社員の職を求めて営業会社に入社。その2か月後には新人教育を任されていた“できる人”
  • ・でも、人を大事にしない会社のやり方に反発して辞職してしまう“熱い人”
  • ・現在は福岡営業所の課長として、職場環境の改善に取り組む“挑戦の人”

安全を守る、から一歩その先へ

―――早速ですが、警備ってどんなお仕事なんですか?

石橋力さん(以下、石橋):警備業界って安全産業なんですよ。目に見えないものを売りにしている業種なので、「安全を守り切った」という結果が大事。

事故を起こさないためには、道路交通法など基礎知識の理解が非常に重要で、その上で正しい誘導や応用ができるようになるんです。

この業界の一番の基盤になっているのは、警備員が自分たちの価値を理解して現場に出ていくこと。それが実際にはどういうことなのかを、弊社は基本教育の中で新しい社員に伝えています。

 

―――仕事の中身と目的が繋がっていないと、自分事としてとらえられないですもんね。

石橋:一般の人が警備員を見るのって1分ぐらいですよね。でも実際にはその何百倍もの時間を働いている。そのたった1分間で、どういう印象を与えられているかっていうのも、我々の提供する価値の一つなんです。

たとえば、道路で警備員を見ても、ただ「警備員さんいるな」っていう認識だと思うんですよね。でも、「おはようございます」って挨拶をされたら、自転車を盗むとか悪いこともできない。犯罪の抑止に繋がっています。

警備員さんは今、全国に57万人いるんですけど、警察と比べると2倍程度多い。警備の仕事の社会的な貢献は、とても大きいと思います。

 

―――夜間とか特に警備の人がいるだけでちょっと安心ですよね。

石橋:今後は「安全を守る」という仕事をしっかりやった上で、もっと警備の仕事に付加価値を付けていこうと思っているんです。それが今、一番力を尽くしている提案業務です。

 

―――提案業務ってなんですか?

石橋:今行っている提案業務としては警備の第一線に立っている現場の人たち(警備スタッフ)がとらえたユーザーさん(取引先)の求めるニーズや、不具合、不安を自社で検討し、それを現場と自社全体で改善を考える。そこからユーザーさんに提案するといったことを繰り返しています。

ちょっとしたクレーム、たとえば「工事の音がうるさい」といった苦情も貴重なご意見だと思っています。それを自社全体の課題としてすくい上げて、夜間工事で連携をとるための無線をインカムに変えたり、発電機の騒音を軽減するためにソーラーパネルの導入を行うことで現場スタッフも仕事がしやすい環境になるよう整備しています。

現場にいる人、人間じゃないとできない仕事は、やる方も楽しいですよね。今、AIがとって代わると予想される業種の中にも警備業が入っていますが、そうした“新しい警備業のあり方”を確立することが、とても大切な時期に入ってきています。

 

―――面白いですね!現場と管理側って分離しているイメージを持っていましたが、会社全体で「安全を守る」という目的達成のために連携して改善していることが分かりますね。

 

「このままじゃダメだ!」という想いが原動力

―――そもそも石橋さんはなぜ警備の業界に入ったのでしょうか?

石橋:警備を始めたきっかけは、アルバイトです。音楽活動をやるために収入源として始め、そのときに国家資格である交通誘導警備業務検定2級を取得しました。

ただ当時は、警備=アルバイトのイメージしかありませんでした。家族を養うために正社員の仕事を探し、最初は携帯電話を販売する代理店に入社しました。

成績を残せば昇進という会社で、上に行くのも早かった。2か月目には、上司に「自分の部下になる人は自分で面接したい」という意思を伝えて、面接官もやるようになりました。

 

―――すごい!順風満帆のように聞こえます。

石橋:仕事の本質って「想い」だと思うんです。人が大切だから、その「想い」に共感しあった人を見つけたくて。でも半年後には会社を辞めることになりました。営業マンを3か月ごとに解雇して会社を回していこう、という話が出たからです。「想い」に共感した人と一緒に働きたいのに、会社の体制が真逆だったら続けられません。

で、次に面接に行ったのが、現在の会社でした。

 

―――入社の決め手はなんだったのでしょうか?

石橋:当時は営業所ができたばかりで、資格を持つ人は所長だけでした。所長から「今は2年目だから、もっと取引先も増やしていきたいし、営業所を大きくしていきたい。技術力を持つ人が必要だから、ぜひ一緒にやりましょう!」と言われて、一発で決めました。熱い気持ちを感じたんです。

ただ、入ってからは大変でした。賃金は業界の中でも高い水準でしたが、就労条件は必ずしも良いといえませんでした。当時は16時間立っていることもザラで、昼夜問わず働いて体を壊しても、なんの保証もありませんでした。

でもむしろ、「この環境を変えたい!」「このままじゃダメだよな」と思っていたんです。諦めの言葉や不満を、どうやってプラスに持っていけるかを考えてきたのが、今の自分を作っていると感じています。

 

―――そして時を経て、今は現場を離れて管理業務をされているんですね。当時の想いは、現在の仕事にどうつながっていますか?

石橋:私が大切にしているのは、社員一人ひとりと向き合うこと。「自分たちはどうありたいのか?」という理想を、カタチにしたいと思っています。そのためにやったことの一つが、働いている人たちの声を拾い上げる仕組みづくりです。

営業所の規模が小さかったころは一人ひとりと対話することもできましたが、大きくなった今では、それも難しくなりました。なので、現場の声を拾い上げる人を配置して、彼らを通じてみんなの意見を組織に反映させようとしています。

たとえば、「賃金が安い」「安定しない」「何をやったらキャリアアップするかがわからない」という声に対しては、「資格をとったら手当がつきます」という制度を作りました。

まだまだやりたいことはたくさんあって、今であればもっと正規雇用を増やしたい。そのために絶対に必要なのは、会社の安定と、社員に将来を提示できること。

「結婚したい」「家を持ちたい」、そうじゃなくても「ただ遊びたい」でもいいんです。「年1、2回は海外旅行がしたい」という希望が叶えられるような会社づくりを、本気で目指しています。

ただ、実際に環境を変えることはたやすくなくて、時間もかかるし、変えるためには社外も含めて協力してもらわなきゃいけないこともあるし…自分の本音をどうすれば誤解なく伝えられるか、納得してみんなで前を向くために、どう活力を作っていけるか。試行錯誤の毎日です。

この業界には、未来を真剣に考える仲間がいる

―――では、この業界の魅力って何でしょうか?

石橋:長くこの業界を続けていると、協力してくれる仲間や相談できる人が増えてきます。それはとっても楽しいですね。以前、営業をやっていた頃には思わなかったことです。

他社の営業マンはやっぱり競合だったんですよね。でも警備業界だと、みんなが感じている課題が同じで、「この業界をより良くしたい」「この不具合をどうにかしたい」「こんなことがあったけど、どうやったら正しい方向にいけるのか?」って、みんなが真剣に考えている。そんな仲間が周りにいることがうれしいです。

そうした中で、最近では弊社が中心となって警備会社同士の横の繋がりを生かして、現場の人員不足を補い合う仕組みづくりを行いました。

11月から3月の繁忙期は、人員が不足してるという不具合の声が上がってきました。1社ではできないことではあるのですが、ユーザー含め協力会社が集まり試行錯誤することで繁忙期の予定調整、人員の確保、責任を分担を行い改善できました。

 

―――他社も同じ方向を向いた仲間として、業界を盛り上げようとしているんですね!

 

真剣に向き合えば、必ず理解者は現れる

―――安全を守る警備の仕事はすごく責任が重いように感じます。実際に働くと苦労も多いでしょうか。

石橋:警備業は安全を追求すると、やりすぎるってことがないんです。自分たちが気配り、目配り、心配りをして、安全な環境を作っていく。事故が起きない事は当たり前のことですが、それに価値に感じてもらいにくいんですよね。でも、誠心誠意、仕事と向き合えば、わかってくれる人は絶対にいます。私が仕事を好きになった理由はそこですから。

ある出来事があったんですよ。場所は、公園の近くのガス管工事の現場でした。やんちゃ坊主がたくさんいたから「この現場は本当に気を使うな」って思って。当時は3か月1クールで、毎日、脚が棒になるくらい立っていました。

精神的にも体力的にも辛いそんな時、近所のおばあちゃんが「いつも大変ね~、ありがとね」って、大根と一緒に。その時は涙が出そうになりました。「なんていい仕事なんだ!」って思ったんですよ。

現場にいれば、心ない声もあるし、缶を投げつけられることもあります。ずっと工事をしていたから、「迷惑を掛けてるよな」って感じることもありました。こんなちっちゃなエピソードですが日々積み重なり「誠心誠意向き合ってやりよったら分かってもらえるんだな」と肌で感じました。

警備は、形には残らないけど、ずっと心に残る言葉を目の前でいただける、そんな業種なのだと思います。

 

―――直接人と関われる、「ありがとう」といってもらえる仕事って人気がありますが、警備もその中の一つだったんですね。職種のイメージにとらわれずに、たくさんの人にこの仕事のよさや、やりがいを知ってもらいたいです。

石橋:なので、仕事に前向きになりたい人、誇りを持って働きたい人には、ぜひ弊社に来ていただいて、話がしたい。「変わりたい、変えたい」という気持ちを大事に、一緒に楽しい職場を作っていきましょう!

編集後記

最後は働く人の想いを大事してきた石橋さんの“おダシ”が効いた、力強いメッセージでした。
専門性があって責任が重く、さらに人に感謝される警備業は、間違いなくやりがいのある仕事。さらに長く、安心して働いていける業界を作っていくためには、多くのプレイヤーの創意工夫が必要そうです。
一緒に業界の未来を作っていくなんて、ちょっとワクワクするかも!?九州中央警備保障でならきっとそれが実現できると、楽しそうに働く社員のみなさんを見て感じた、今回の取材でした。

執筆:大谷 徹(tecotoca)

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